赤毛布(赤ゲット)物語


田村 哲夫(東京十日町会会員元・日本経済新聞政治部記者)

失敗談〝昔話〟
 「トム・ソーヤーの冒険」などの子供向け作品の多いマーク・トウィンの「赤毛布外遊記」(岩波文庫・浜田政二郎訳)は実に面白い。南北戦争を終えたばかりの、米国の好奇心旺盛な人士が古い歴史を持つ中東や欧州諸国を歩きまわり、至る所で失敗を繰り返す顛末が、実は越後の田舎から東京へ来て、入った新聞社では人には言えないような失敗やヘマを繰り返した自分と似ているな、と感じ入るからである。
 此処では、自分の失敗談は棚上げし、適当に昔話を思い出してみると――入社半年前の63年11月23日早朝、外報部のデスク脇に在るロイター通信社のチッカーが大きなベルの音を立てて一枚の紙を吐き出した。緊急ニュースである。そこには「ダラス ショット ケネデイ」の英語3文字。デスクは整理部に向かって「輪転機ストップ、突っ込みだ」と叫んで「ダラス ケネデイを撃つ」の見出しだけを出稿した。ダラスという人物が大統領を撃った、と思ったのだ。現地では、ダラスが場所、ショットは受け身くらい子供でも判ること。通信社からは直ぐ続報が届き、幸い、街が大統領を襲撃するような椿事を印刷、発送するまでには至らなかったのはこのデスクと宿直の悪運の強さ以外何ものでも無い。
 海外取材ではこんな赤ゲットは幾らでも起きた。ケネデイ事件より数年前のこと、米国務省が日本のプレスを招待した。我社からも経済担当のベテラン記者が参加したが、ミネソタに到着、州の案内係が見学を希望する場所を皆に聞いて来た。と、その取材熱心なベテラン氏「最新鋭の卵工場を是非見たい」。仲間内から薄笑いが出たが、案内係氏「?」「此の街には卵の工場は一か所も無いんですが」と訝るばかり。(若い方のための蛇足:佐伯孝夫 作詩 利根一郎 作曲 曉テル子歌)

政治家に関わる〝昔話〟
 当方の担当部署が政治家の周辺に移ってからは、政治家の外遊にも、面白い話が沢山落ちていることに気付く。
 佐藤内閣時代、自民党の外交安保関係の議員団がフランスを訪問する。ある朝、地元の若い大使館員が「今日はノートルダムの視察です」と言うと、一人が「寡聞にしてそんなダムが出来たことは聞いてないな。遠いのかい?」。その人の名前は今にも伝わっているが、省略。
 72年秋、田中首相は大平外相、二階堂官房長官らと訪中。国交回復のためだ。二日掛りの難交渉も何とか折り合いが着き、最後に毛沢東主席に逢うと、お土産に、と古い書物を貰う。嬉しそうにそれを受け取る首相の写真も残っている。その書は「楚辞集註」。早速首相は、一体これは何の本だね、と周りに聞いたが、誰も答えない。と、大平外相が、楚の屈原と言う人の詩集で、詩経と並ぶ代表的な古典、と説明すると、首相は、益々判らなくなった、と言いながら、そのまま外相に渡して忘れてしまった、という。
 そういう物語になるには、伏線があった。自民党幹事長、蔵相などを歴任した時点での日経新聞最終面「私の履歴書」欄への登場である。初めの5、6回は担当記者が話を聞いて原稿に纏めていたが、途中から「自分で書く」と言い出して、本当に原稿にして社に届けて来た。誤字、脱字以外はそのまま掲載。すると、当時、評論の神様とまで言われた小林秀雄が、実に面白い、と葉書で社に賛辞を寄せて来た。これが早坂秘書を通じて大学生だった長女真紀子さんに伝わり、早速「パパの文章、小林秀雄が褒めているよ」と云うと、返答は「それは誰かね?」

二人の宰相の〝昔話〟
 田中派の逸材の一人、派を破って独立し、大勲位から指名された宰相の話。若い頃、新制中学で英語の教師をした経験もあって、国連本会議の演説を英語でやろうと勇気ある決断をする。秘書官に原稿を書いてもらって、何度か練習を重ねたうえで、勇躍、晴れ舞台に臨んだ。心配の秘書官は偶々隣にいた南アフリカの外交官に「この演説判りますか?」と尋ねると、その人「初めて聞いたが、日本語って英語に似ているんですね」。
 極め付きは米国大統領がクリントン氏だった時の日本の宰相。訪米で大統領と挨拶しなければならない。秘書官に手ほどきを受けた。「先ず、ハウ・アー・ユーと言って下さい。」「うん、わかった」「そうしたら、向こうから、アイム、ファイン、サンキュー、アンドユー?と言ってくるはずですから、ミーツー、サンキュー、と返してください」。
 これで準備は整ったはずだが、本番では慌てたのか最初に「フー アユー」と言ってしまう。と、大統領、ジョークと受け取って「ヒラリーズハズバンド」。こっち側は意味が解らないから習ったままに「ミーツー、サンキュー」。
 最近では、こんな話少しも聞こえてこない。歴史が進歩しているから?

(会報誌:2022年11月)

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