ロング・グッドバイ 石原慎太郎さん(1932.9.30 ~ 2022.2.1)


一、慎太郎さんとの“出会い〟

 私の石原慎太郎さんとの最初の出会いといえば、昭和31年(1956)、『太陽の季節』で第34回芥川賞を受賞した時。当時、大学・文学部を目指して浪人中の私にとって、大学在学中の若者の芥川賞受賞は、大きな驚きであった。早速、掲載誌『文藝春秋』を購入したことが思い起こされる。以後、文芸誌に発表される作品は、ぽつぽつと読んでいた。
 そんな、作品を通してだけの〝お付合い〟が、ぐっと身近なものになったのは、昭和47年(1972)、私が東京から神奈川県の逗子市に移住してからである。逗子に越してきて、すぐ気が付いたことが、この町と石原慎太郎・裕次郎兄弟との深い結びつきだった。
 私が、逗子の町で行きつけの床屋をどこにしようかと、最初に入ったのが「逗子銀座通り」のBarber Shop。私が、逗子に越して来たばかりと話すと、主人が逗子のあれこれを話してくれ、さりげなく、自分が逗子中学で、投手として捕手の裕次郎とバッテリーを組んでいたことを話してくれたのだった。
 床屋といえば、こんなこともあった。私が、やや裏道的な「新道通り」を歩いていると、先方のあまり目立たない床屋から慎太郎さんが、ぱっと出てきたので、びっくりした。後で分かったのだが、その夫婦だけでやっている床屋が慎太郎さんの行きつけの床屋で、かの〝慎太郎刈り〟は、そこの主人の考案になるものとか。
 逗子に越してきて三年程して、逗子の山際から海辺の新しい住まいに引越す。逗子駅前から海岸廻り葉山行のバスで約10分。バス停「切通し下」で下車。右に曲がり海岸に向かって下った処にできたマンション。その曲がり角に、大きな古い平屋建の家があった。この家が、海運会社幹部の父が逗子に定めた住まいで、慎太郎兄弟は、ここで育ったのだという。
 マンション4階のわが家からは、正面に江の島、右前方の山腹には、新・慎太郎邸の佇まいの「眺望」が楽しめたのだった。
 5歳年上の慎太郎さんの訃報に接して、早や8ヶ月。慎太郎さんとの諸々の事が、次々に思い起こされるのであるが、その一つのシーン。1980年代の事。慎太郎さんが、影のオーナーであった若者向け雑誌・『いんなあとりっぷ』誌。この雑誌の編集長に、大学同級の旧友SEKI君が就任したことにより、私も勤務の傍ら、客員ライターに。ある時、編集室を訪れている時、突然、慎太郎さんが自身の原稿をもって現れ、例の早口で、二、三の注意点を述べ、待たせていた車でさっと帰っていったのだった。

二、石原慎太郎の晩年の二著作

 作家・政治家の石原慎太郎さんは、それだけでなく評論家、映画監督、クルーザー愛好家、冒険家、作詞家…として生涯に実に多くの作品を残している。
 ここでは、その中から最晩年の二作を採り上げ、慎太郎さんへの〝はなむけ〟としたい。

天才(2016・1・20・刊 幻冬舎)
『天才』(2016・1・20・刊 幻冬舎)

 作家・石原慎太郎が、田中角栄『私の履歴者』、田原総一郎『戦後最大の宰相』など、参考文献欄によれば30余もの田中角栄関連の資料を渉猟、角さんの「一人称」で書き下ろした異色の作品。
 本書が出版された時は、内外に大きな反響をもたらした。それは、かつて「反田中」の急先鋒だった石原氏の「田中絶賛」の書だったからである。
 私自身、刊行時、即書店に走ったものである。本書を読んでみれば、なぜ石原氏がこの作品を書いたかがよく判る。
 石原氏は、巻末の「長い後書き」で、〝角さん〟が、戦後日本の基盤をつくり上げた、先見性に富んだ政治家であることを明解に述べている。
 又、ロッキード事件は、アメリカの仕組んだ欺瞞と遠謀であると、明確に記していることは、大変うれしいことである。

私という男の生涯(2022・6・20・刊 幻冬舎)
『「私」という男の生涯』(2022・6・20・刊 幻冬舎)

 本書は、死後出版することを条件に、最晩年、作家、政治家として、自身の歩んできた道を丹念に記した「自伝」。
 前半は、幼少期からの歩み、好きな「海」、「クルーザー」のことなどを淡々と記している。しかし、後半になると、ややトーンが変わり、政界のドロドロした内幕、子まで設けたという男女間の関係などが、生々しく語られているのである。ここにきて、「死後の出版」という条件が納得できるのである。
 表紙の「帯」には、「死して初めて明かす『わが人生の証明』」。と記されている。

(会報誌:2022年10月)

関連記事

新着一覧

ピックアップ記事

  1. -からだと心の豆知識- 「目薬使用時は瞬きをしないで」 目薬は医療用語で「点眼薬」と呼ばれ、…
  2. 大河津分水は通水100周年を迎えます。  良寛さまをして、「この世に神様がいるなど疑いたく…
  3. ふるさとの暮らし 日本の原風景 生活の中に美を求める心を養う 版画村運動(1/2) リポート…
  4. 2021/10/16

    出掛けよう!!
    出掛けよう!! 及川 恒夫(総務委員長・東京白根会会長)  コロナ禍を避けるため「不要不…
  5. 鮭・酒・情 三さけの恵み ふるさと村上を想う 伊槻紀子(東京村上市郷友会)  「ほら、持って…
  6. なぜ、植物は五千年も生きられるか 羽賀 正雄 氏(東京やまと会顧問) 生物にとって寿命と…
  7. 随想四季 世界三大珍味とは何と何と何? 日本の三大珍味は?  先日の広報委員会の流れで地下…
  8. 石動神社(いするぎじんじゃ)三条市 吉野屋の権現様に彫刻界の巨匠石川雲蝶を訪ねて  …
  9. 紺野美沙子さんの「卓話の時間(動画)」 「日々を豊かにする言葉の力」 日時:6月8日(火)1…
  10. 随想四季 鎮魂の神社・そのⅠ(京都逍遥4) 大原 精一(広報委員・越後長岡ふるさと会) 一.怨…

おすすめ記事

  1. 2022-4-8

    えちご妙高会 オンライン形式交流会(1/2)

     えちご妙高会の総会・懇親会は毎年7月に都内ホテルで100名を超える参加者を得て開催していま…
  2. 2022-2-23

    東京新潟県人会館 竣工祝賀会(1/2)

    東京新潟県人会館 竣工祝賀会(1/2) ふれあいふるさと館 竣工1周年 日時:令和3年12月…
  3. 2021-3-6

    拉致問題の解決に向けて 【レポート】

    第33回 文化講演会(主催:文化委員会) 「拉致問題の解決に向けて」 拉致被害者の立場から 講師…
  4. 2020-12-7

    ふれあいふるさと館 竣工式(動画)

    竣工式 動画 2020年12月6日(日)、東京新潟県人会館(ふれあいふるさと館)竣…

クローズアップ

  1. 2022-5-29

    ふれあいふるさと館(9階サロン)

    ふれあいふるさと館(9階サロン) 憩う・語らう・鑑賞する  ゆったりソファーに美しい[キルト…
  2. 2022-1-26

    中田 瑞穂と「中田みづほ画集」

    中田 瑞穂と「中田みづほ画集」 日本の脳神経外科の基礎を確立した医師  中田先生は島根県津和…
  3. 2022-1-13

    棚田の里を後にして

    棚田の里を後にして 恵まれた郵政生活50年  元東京中央郵便局長で、瑞宝中綬賞受章の叙勲の小…
ページ上部へ戻る