司馬遼太郎 峠

暮らしのヒント
維新に散った〝最後の侍〟長岡藩・河井継之助の生涯

文庫本〈上〉〈中〉〈下〉の三巻からなる、長編歴史小説・『峠』。
日本の歴史上の大転換期・幕末。越後長岡藩から一人の藩士・河井継之助が江戸に出府。陽明学に心酔し、詩文・洋学など単なる「知識」を得るための勉学ではなく、物事の「原理」をひたすら知ろうと精進。
長岡藩に戻ってからは重職につき藩政改革にも取り組む。やがて藩の上席家老(首相のような職)にまで上り詰め、開明論者でありながら、最後は、長岡藩を率い、維新史上最も壮烈なる北越戦争に散った〝最後の侍〟の波乱に満ちた生涯を描いた力作長編小説である。

国民的作家・司馬遼太郎の幕末・維新シリーズの傑作

作者・司馬遼太郎(1923~1996)は、1960年(昭和35年)歴史小説『梟の城』で第42回直木賞受賞。新聞記者を経て作家に。『峠』は、1966年(昭和41年)11月から約1年半にわたって「毎日新聞」に連載された。当時、新聞連載小説は、一流作家の登場する檜舞台。司馬氏の新聞連載小説としては、本作は、『竜馬がゆく』の連載終了後、約半年してスタート。やがて国民的歴史小説作家としての地位を確立した次作『坂の上の雲』に至る道程にある作品。司馬作品の多くは、NHKの大河ドラマの原作にもなっており、文字通りの国民作家である。


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河井継之助の「人間像」の見事な造形と共に、激動の日本の生きた「幕末維新史」

とにかく読んで面白い。それまで司馬氏が手がけた幕末ものの主人公・土方歳三、坂本竜馬…など大衆的英雄と違って、一般的にはあまり知られていない。しかし、一小藩には収まりきらない、間違いなく大人物である継之助を主人公に据えるという妙手。

司馬氏は、あたかもそこにいて見てきたかの如く「…誠に颯爽とした手際で、手に取るごとく語って聞かせる…」(解説・亀井俊介)。
又、この小説は、全体を通して、生きた「幕末史」。1853年(嘉永6年)のペリー艦隊浦賀来航から1868年(慶応4年)鳥羽伏見の戦い。戊辰戦争までを、ヴィビッドに語ってくれている。
(広報・樋口/2022月6月 会報誌)