古希に想う

随想四季

古希に想う
田辺 幸雄(旧東蒲原郡鹿瀬町出身)

 
 「アズナブール流しながら、この手紙を書いています。」というような心境で書こうと思うが、無理があるので止めにした。
 この一月で、漸く古希に到達した。ここまでの道のりは、決して平坦ではなかった。
 小学生になる迄、沢山の病気に好かれて来た。最初が赤痢、中耳炎、トラホームその都度、父と母の看病で助かって来た。家族からも。
 今でも、父母の愛情に感謝している。その最たるものが、父八十五歳、母八十七歳迄、健康寿命で居られた事だ。遺された者にとって、どれだけ感謝しても、し足りない愛情の注ぎ方だ。この両親にしてこの子ありと言われるように、恥じない余生を送りたいと思っている。
 母が最も辛かったのは、私が就職して二年目の春。私が通勤途中の電車で、倒れてしまった時ではないだろうか。それから、病院で肋膜炎と診断された。幸い、私の同級生が横浜市の保健所に居たので、当時京急谷津坂駅近くにあった結核療養所を紹介してくれた。中々混んでいて順番待ちの所を、すんなり同級生のお蔭で通院できた。
 その病院で、週二回(月・木)午前中に筋肉注射を打った。それが一年続き漸く行かなくて良くなった。その時の嬉しさは、今でも忘れない。齢二十三の春。
 当時勤めていた会社の上司お二人にも、感謝してもし切れない情けをかけて貰った。一年間、通常社員と同じ扱いで、昇給もボーナスも減らされなかった。そのお陰で県人会にも出られる、心と金銭的ゆとりをいただいた。今でもそのお二人に、少しでも恩返しをしようと、お会いする度傍に付いて転ばない様に気を配っている。

感謝と愛、そして受容

 最近つとに思うのは、人への感謝と愛、そして受容が必要だと。それには、何をしたら良いのだろうかと。
 私は、「老いて益々盛んなり」とは、絶対言わないだろうと。それより、「老いては子に従え」の方が、私の生き方からすればしっくりくる。
 年を取るたびに、気を付けているのが、思い込みが激しくなったり、傲慢になったりすることだ。それは、自分には分からない。困った事だ。
 
 話は大きく逸れるが、父の影響(父は旧中蒲原郡亀田町袋津出身)で、幼い頃から浪曲に親しんでいた。昭和二十九年から十一年間続いた『浪曲天狗道場』を、昼より夜が良く聞こえる新潟放送で聞いていた。
 指南役の浪曲ものまね前田勝之助さんがあこがれだった。虎造や勝太郎が得意だった。旧中蒲原郡は、当時スターの寿々木米若が出た所だからだ。佐渡おけさからヒントを得た『佐渡情話』は、二代目広沢虎造の『石松代参』と人気を二分していた。ラジオも週五本の番組があった。
 それが高じて、就職してから、当時NHKの主力が、新橋の内幸町にあった頃、毎月一回土曜日午後六時からのラジオ番組、『浪曲』の収録を聞きに行っていた。二代目東家浦太郎『野狐三次』・三門博『唄入り観音経』・初代春日井梅鶯『南部坂雪の別れ』・二代目玉川勝太郎『天保水滸伝』・初代相模太郎『灰神楽三太郎』等々。さらに、女流浪曲師の天津羽衣・二葉百合子の若き日を目の当りにして、心ときめいたものだ。
 因みに、虎造の次男が、元TBSのアナウンサー山田二郎さんだ。県人会の池田孝一郎さん(元TBSアナウンサー)から聞いた話である。
 
 閑話休題。私は東京新潟県人会の広報委員会で、素敵な仲間達に出会っている。日々些細な事でも言葉にしたら、どう表現するかを、五感を研ぎ澄まして修練している。
 それが、『新潟懸人』の誌面に反映すると信じて。

眉上げて、前へ進む

 私は古希に到達して、段々寂しさも増して来た。人生は、いつの時代も結局生まれた時、最初におしめをして、老いてまた、おしめをしてこれが本当に(おしめいだ)お終いだと綾小路きみまろさんの漫談にあるが、その通りだと頷く。
 百八歳迄生きたと言われる天海僧正の言葉に、「気は長く 勤めは堅く 色うすく 食細くしてこころ広かれ」というのがある。これは、家康に伝えた長寿法と言われている。私も、旅クラブの日帰り旅行で川越に行き、その言葉を知ってから、今でもその生き方に少しでも近づく様に、心に言い聞かせている。
 それを分かり易く、言い代えれば、日々万物に感謝して、愛を与えて、全てを受容することだと思っている。
 そして、これからも多くの人と仲良く力を合わせ、眉上げて前へ進みたい。生きている時は、人が宝物である。(2020年1月16日 記)

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