生活の中に美を求める心を養う 版画村運動(1/2)


ふるさとの暮らし 日本の原風景

生活の中に美を求める心を養う 版画村運動(1/2)

リポート 清水裕美子(広報委員)

 蝶の形をした佐渡島の南半分に横たわる小佐渡山脈、その頂上近くの栗園の中央にかつて40坪の作業小屋があり全島に知られていた版画ギャラリーがあった。建てたのは近くの静山集落の農民たちである。山あいの段々畑に点在する農家の人々が農作業の余暇に制作した版画に目を見張る瑞々しさがある。静山集落とは別の山あいの小倉集落もいわゆる千枚田の静かな農山村だが、ここも版画の制作をしている。佐渡の農山村各地区ではこうした形で版画制作をしている人々がいる。
 この佐渡版画村運動の中心的存在が高橋信一氏であった。先生は1949年に両津高校の教諭に就任以来、熱心な版画指導を行い、同高校は全国コンクールに56年から60年まで連続5回の郵政大臣賞を受けるなど「版画の学校」として広く知られた。佐渡の良さ、美しさを絵を描くなかで悟ってほしいと願った高橋先生は、76年に同高校を定年退職したのち、島民に版画を教えることに情熱を傾け、農山村の人々もこれにこたえて生活の中に美を求める心を養い、作品に結実させていった。
「目標を一つにして村民たちが互いに協同して制作に取り組むこと、それが高齢化と過疎化に対応する力である」と先生は語った。
 かの有名な司馬遼太郎氏は著書『胡蝶の夢』のなかで、「佐渡の人で侍というものはいないのである。農家の子のすぐれた者が相川奉行所の地役人に採用されて、いわば士格を持つが、これは稀少で、佐渡では本来百姓が学問や芸能あるいは躾の文化を担っている」と書いている。佐渡版画村運動が地域文化として定着する素地を佐渡島は備えていたのだろう。(会報誌:2021年12月)

(2/2)へつづく

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