もう一つの忠犬物語


もう一つの忠犬物語

◇雪崩から曾祖父救ったタマ公 紙芝居にし小学校に◇
東京の渋谷には従順な雄犬の大きなハチがいて新潟の五泉には勇敢な雌犬の小さなタマがいた

 忠犬といえばハチ公が有名だが、新潟には飼い主の命を2度も助けた「タマ公」という犬がいた。小柄な雌の越後柴犬のタマは、雪崩に巻き込まれた飼い主の刈田吉太郎を必死に助けた。吉太郎のひ孫にあたる私は、この物語を後世に残したいと「忠犬タマ公委員会」を立ち上げた。

タマは1920年代の終わりごろ、現在の新潟県五泉市村松地区で生まれた。猟師である吉太郎に引き取られてからは、どこへ出かけるときも一緒で、深い絆で結ばれていた。はじめの救出は34年2月のことだ。吉太郎と近所の猟師仲間が山に猟へと出かけたとき、雪崩が2人を巻き込んだ。雪の下の吉太郎を発見したタマは、前脚を血だらけにしながら雪を掘って吉太郎を救出した。猟師仲間こそ助からなかったものの、タマの活躍は新聞やラジオで日本全国に報じられた。

36年には猟の最中にまたも雪崩にのみ込まれた吉太郎を救った。一度ならず二度までも飼い主を救ったタマの逸話に感動した新潟県出身の海軍関係者の呼びかけで、神奈川県横須賀市には石碑が建てられた。翌年には地元の小学校と新潟市の白山公園に等身大の銅像が建立された。

そのタマ公像は第2次世界大戦中に危機を迎える。金属資源として銅像を回収する動きが盛んになったのだ。小学校の像を守るために先生と生徒が立ち上がり、像を隠して供出を免れたという。地中に銅像を埋めたとも語られている。

 一方、白山公園にあった像は撤去されてしまった。東京・渋谷のハチ公像も第2次大戦中に撤去されている。飼い主を必死に助けた雌犬タマ公と、飼い主をひたすら待った雄犬ハチ公。ほぼ同時代に生きた2匹の忠犬の奇妙な運命のつながりを感じずにはいられない。戦後、白山公園の銅像が再建されたほか、上越新幹線の開業記念で新潟駅に設置された。2017年には6体目となる銅像が横須賀市に建てられた。

小さい頃から祖父母や母にタマの物語を聞かされて育った私が「忠犬タマ公委員会」を立ち上げたのは17年のことだ。同じく吉太郎のひ孫であるはとこや、同年代の仲間と再会したときに、ふとタマ公の話になった。地元では英雄として語り継がれ、小学校では学習発表会で「タマ公ミュージカル」が披露されるなど愛されている。五泉市外でも年配の方には親しまれているものの、若い世代となると市内でもタマが生まれた村松地区以外では知らない人も多い。故郷が誇る感動的な物語を広めたい。紙芝居を作り、新潟県内すべての小学校と図書館に配布した。絵は五泉市の名産であるニットを貼り合わせて制作した。動画投稿サイト「ユーチューブ」で、日本語と英語の語りとともに見られる。タマ公の物語は、動物愛護の心、雪崩などの自然災害の恐怖、どんな状況でも諦めない気持ち、戦争の理不尽さなど多くのことを教えてくれ、教育にも生かせると考えている。私も地元の小学校で紙芝居を題材に出前授業をしたり、課外活動で児童と一緒に銅像を清掃したりしている。タマ公についての情報が寄せられるようになったのは、委員会を立ち上げてよかったことだ。新潟県北部の胎内市在住の方から「タマ公の石像がある」と連絡を受けた。救出劇が大きく取り上げられたタマだから、まだ知らない像や碑があるかもしれない。いつかハチ公と同じようにハリウッド映画になり、タマが世界に羽ばたく日を夢見ている。

忠犬タマ公像
忠犬タマ公像
出典:にいがた観光ナビ

タマ公の偉業を称えた銅像は地元・村松地域をはじめ新潟駅や白山公園ほかにありますが、同じ時代を生きた東京のハチ公とは異なり、タマ公の功績が語られる事はあまりなく、時と共に風化しようとしています。私たち忠犬タマ公委員会+ワンは時を経ても変わらぬ「絆や友情」を旨として、タマ公を語り継ぐ活動をしております。その一環としてハチ公とタマ公をシンクロさせたパンフレット「一続」を制作しました。五泉地域では子どもの頃からタマ公の逸話を通し「諦めない心」「命の尊さ」「人と動物の絆」「他者への思いやり」を学んでおります。

今、コロナ渦にあって世界の人々は生き辛さに直面しています。しかし、雪崩という魔物に遭遇した時、愛情を注いでくれた主人を守るため必死で闘ったのがタマ公です。私たちも魔物に負けて立ち止まってはいけないのです。タマ公の素晴らしさをこれからも掘り起こしてまいります。

(忠犬タマ公委員会委員長 伊藤和幸)
(会報誌:2021年12月)

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