事業承継の現状を考察する

暮らしのヒント

~先人が築き上げた日本経済を沈没させないように~

植木 康彦 氏(財団監事)

事業承継の課題
 皆さんは、中小企業の事業承継の状況をご存知でしょうか。
 実は大変なことになっていて、このままでは日本経済が沈没しても不思議ではない、崖っぷちに立たされています。少し、現状を説明します。
 中小企業庁の調べによると、我が国の中小企業の数は約381万で、うち70歳以上の経営者が245万に及ぶとされています。この約半分にあたる約127万が後継者未定の状態となっていると言われており、後継者不在で廃業の危機にある中小企業がたくさんある状況です。実際、中小企業の休廃業・解散件数は2018年度で既に46,000件を超えており、年々増加しております。
 この問題を放置した場合、先人が苦労して築き上げた日本経済が沈没してしまう恐れがあるので、早期に事業承継を円滑に進める必要があり、その障害となり得る税金の問題や相続における遺留分の問題、さらには借入時の経営者保証問題について、政府においても対応策を打ち出しているところです。

どのように事業承継するか
 ひと口に事業承継といっても、後継者の有無、後継者の属性(親族か従業員か)によって、対応しなければならない問題は異なり、それぞれ生ずる問題を見極めて対応する必要があります。

事業承継における主な課題

(1)親族承継
 社内に経営者の親族(子供、兄弟、甥姪等)がいる場合、その後継者に対する教育、社内外に対する周知のほか、会社の株式を贈与する場合には贈与税や、後々の相続が生じた場合の遺留分の問題が生ずることになり、また、株式が分散している場合には、それらを集中して次の後継者において円滑に経営を行う体制を整える必要があります。
 また、贈与税・相続税を無税にする特例事業承継税制の活用を検討することも肝要です。
(2)従業員承継
 役員や従業員が経営を承継する場合には、株式の承継の方法(売買・贈与など)、資金調達、社内の人事調整のほか、借入時の経営者保証を後継者が承継するのかなどが問題となります。
(3)第三者承継
 社内に後継者がいない場合には、外部から経営者を招聘する必要がありますが、中小企業でそのような人材を早期に得ることは難しいのが現実です。その場合、会社又は事業を他の企業や起業家に譲渡(M&A)することで、従業員の雇用を維持し、取引先や顧客への影響をできるだけ少なくするとともに、退任する経営者においてはその後の生活資金を得ることができます。最近は、M&Aのハードルは下がり、従来型のM&Aアドバーザリー(仲介業者)のほか、インターネット上のM&Aプラットフォーム(会社のお見合いサイトのようなもの)を利用し、安価な費用で相手先を探すことも可能です。
 いずれの方法を選択する場合でも、事業承継上の課題を抽出し、早め早めに対応することが肝心です。(拙著2020・4ゼロからわかる事業承継・M&A90問90答(税務研究会)から)

筆者:植木康彦(1962~)新潟県柏崎市(旧高柳町)に生まれる
   公認会計士・税理士・経営管理士・事業承継M&A事業再生アドバイザー
   近著書:2021・5『ゼロからわかる事業再生60問60答』(税務研究会)
       2021・1『会社の廃業をめぐる法務と税務』(日本法令)など約50冊
(会報誌:2021年9月)