鮭・酒・情 三さけの恵み

暮らしのヒント

ふるさと村上を想う
伊槻紀子(東京村上市郷友会)

 「ほら、持っていげ」「あっ、ありがとね!」村上に帰るとぶっきらぼうに、はにかんだ笑顔で渡してくれる従兄弟の手作り真空パック。
 しょっぱいけど、長持ちしてごはんがどんどん進む、大好きな茶色の酒びたしです。

 故郷、村上に帰省すると、この「ほら、持っていげ」が嬉しくて、帰京が少し寂しくなるいつもの光景。でも今年は、この会話ができなくて、懐かしい村上の人たちに会うことができません。その気になればすぐに帰ることができると思っていたふるさとが、新型ウイルスの影響で外国みたいに遠い存在になってしまうとは想像もできませんでした。
 帰れないとなると、不思議とますます恋しくなる心のふるさと、四季おりおりの自然の恵み、

 は、コゴメやゼンマイの和え物、笹団子やちまきの美しい緑
 、 アユの塩焼き、枝豆、冷酒も最高
 、 同級生の田んぼから送ってもらう新潟米は日本一!
  なんといっても村上の鮭、もう家々の軒先につるされている頃でしょうか。

 そう、この随筆が掲載される頃はまさしく鮭の季節、はらこ(イクラ)が待ち遠しい季節…鮭は頭からしっぽ、内臓まですべてが、栄養の宝庫です。今までは苦手だったけど、今度、父が大好きだった、いいずしにも挑戦してみようかなと思います。この恵みも寒空で鮭を採ってくださる漁に携わる方々のおかげです。

 以前、NHKの「新日本紀行ふたたび」という番組がありました。
そこで、「越後鮭物語」という回があり鮭鑑を持つサケ漁の様子を放映していました。
名人と言われた先代の鮭とりの後を継いだ朝日村のおじいさんの物語でした。明日、鮭が取れますようにと仏壇に祈っていたそのおじいさんの姿が目に焼き付いて離れません。

 気がついてみると家の台所には、例の酒びたし、米はもちろんのこと、みそ、しょうゆ、最近はコーヒーまで地元のものになっています。
毎日の食卓に上る白いご飯は、同級生のご主人が丹精こめてつくった自慢のお米、本当においしくて、毎食ごとにエネルギーをいただいています。
そしてコーヒーは家の近所のコーヒー豆のお店。以前帰省したときに、偶然見つけました。そのおいしさに、家族でファンになり、今では、数か月ごとにお取り寄せです。 そうだ、北限のお茶、村上、栽培の歴史400年の我が村上茶があるではないですか。お茶も今度はお取り寄せしよう。

 そんなことを思っていた矢先、先日、仕事で富山への出張がありました。そこで目にしたのが新幹線にあったトランヴェールという情報誌。
 ページを開いたら、駅弁ギャラリーのトップに「村上牛しぐれ」のお弁当!
少しだけ引用させていただきます。

 「一面 肉、肉、肉、隙間なく重なり合うように牛、牛、牛。
 新潟県の村上と聞けば、鮭を思い浮かべるに違いない、でも今回は牛である、(略)白いご飯ごとすくいあげパクリといけば、村上牛の独島の甘味が口に広がった。
 通り過ぎる車窓の風景が、舌をより敏感にする。旅情をかきたてる。」

 ううっ、行きたい、食べたい、帰りたい。仕事が終わったら東京ではなく、そのまま北上して、直江津→長岡→新潟→村上に行けたらなあ…と妄想してしまいました。

 こうやってページを開いていくと、味探訪あり、観光タクシー案内あり、ふるさとが呼んでくれている気がします。
Go to も始まってもう帰っていいですか? いやもう少し待ったほうがいいですよね。

 大切なふるさとと、人のために、感染対策を完璧にして、訪れたいと思います。

 それまでは、ふるさとの味を満喫しながら、美しい山河に想いを寄せて、暮らしましょう。

 この秋は熊の出没が多かったとのこと。どうか皆様、ご安全に。 

(会報誌:2020年12月)

引用画像:村上の鮭村上牛しぐれ