日韓間の意識断層 -どうして、こう揉めるのか。私見

会の活動報告

田村 哲夫 氏(東京十日町会)

 日本経済新聞社ソウル支局長を歴任された田村さんが、駐在員の体験を通して、どうして日本は韓国との間でトラブルばかり起きるのか、その背景について語っていただきました。

1 .初めに何が? 現在・過去の揉め事は?
 本年7月、我が国が韓国向けの半導体材料の輸出規制を厳格化する措置を発動したことにより、元徴用工問題などでこじれている日韓関係がさらに悪化しています。
 日韓両国は1965年に締結された日韓基本条約の付随協約により、当時の日本の国家予算の2倍強の協力金を日本が韓国に支払うことにより、日韓両国間の請求権問題が「完全かつ最終的」に解決されたことを確認しています。本来であれば、その時点で両国の過去は清算され対等の付き合いを始めるべきなのですが、日韓それぞれの事情により、その後も日本は韓国に対して何度も謝罪や援助を繰り返してきました。それにもかかわらず、韓国は日本に対して、いつまでも謝罪と賠償を要求しています。
 なぜ彼らは日本を許そうとしないのか、どうすれば彼らの要求が終わるのか?それを理解しないことには日韓友好も何もあったものではありません。
 日本の植民地支配に起因する出来事は、すべて日本政府の責任であるとしています。しかも、それに対して時効の概念はなく、さらに韓国政府が意図的に自国民に対して条約の内容を知らさないでいるので、未だに多くの韓国民が、その事実を認識していません。

2.揉める理由は? 意識の食い違いの例―個人的経験
 韓国には歴史から来る怨念あるいは被害者意識の裏返しとでも言うのか、「反日」であれば何を言っても許されるといった風潮があり、日本側から見れば、その主張は常に独善的です。
 一方の日本には相次ぐ批判に対する苛立ちや〝韓国疲れ〟からくる「嫌韓」感情が蔓延し、両国関係は改善の糸口が見えないどころか、出口なしの危険な領域に落ち込みつつあります。
 私達と韓国人では問題を認識する上での視点やプロセスがまるで異なるため、同じ問題を見ていても見え方や重視する部分がまるで異なり、話し合いをしても一切話がかみ合いません。
 韓国人の多くは、問題を認識する時に客観的な経緯や経過というものを殆どの場合に重要視せず、問題に対したときに感じた「その時の感情」を非常に重要視する傾向にありま
す。

3 .食い違いの由来 歴史からの帰納 私見
 韓国はどういう国なのか、その国民性を見ることが重要です。何と言っても、国家の成り立ち(歴史)や統治形態(法令等)を見るのが一番の近道です。
 現在使われている朝鮮人の姓は286種類で、最も一般的な朝鮮人の姓(特に韓国)は「金」であり、「李」と「朴」「崔」「鄭」がそれに続いています。この5つの姓が朝鮮民族の人口の半数を占め、近現代の植民地支配~南北分断などの経緯に加え、徴兵制度が存在することから民族への帰属意識が高く、一方で地方の郷土意識も根強く残っています。
 日本において、歴史というのは過去に起こった事実を客観的に検証し事実に迫ろうとするものですが、韓国においては事実とは関係なく「こうあってほしい」「こうあるべきだ」という結論をもとにストーリーを作り、その結論を決めるのは戦いの勝者、つまり時の権力者です。
 彼らは往々にして、自分たちに都合の良い結論をもとに歴史をつくり、自分たちが政権の座から引き摺り下ろした過去の為政者を否定します。それは自分たちが新しくつくった政権の正当性を担保するため、政権が交代する度に繰り返し行われる行為で、昔は一族皆殺しなどの残虐行為も珍しくありません。
 民主化された今は、残虐行為こそ行われませんが、歴代大統領の末路を見れば、韓国の歴史に対する考え方が良くわかります。
 日本の場合には、現状殆どの人が日韓のこうした価値観の違いをまるで知らず、更にメディアを中心に韓国に対する肯定的な評価以外の全てを「差別」としてしまう風潮があるがために、この日韓で同じ価値観を共有しているという錯誤から、「そんなおかしな考えの人々は例外的な一部だけだ」と考える風潮にあり、この知識不足から来る態度が更なる問題の悪化を引き起こしています。
 現実には、「おかしな考え」との発想自体が、日本人の価値観が絶対普遍でどこでも通用するという考えの非常に独善的なものであり、他の異なる価値観を見ようとしないからこその発想なのです。

4.今後の両国関係への視点 私見
 1965年12月18日に日韓基本関係条約が発効し、2015年に日韓は国交正常化50周年を迎えました。これまでの相互不信を乗り越えて日韓両国が友好関係修復へ向かう象徴の年となるはずでした。
 それは、強弱・勝敗を争う「尚武」でなく、和と協調の「合気」の精神が求められています。まずは「違いは違いとして認めて認識すること」。
 問題が日韓の間で無数に存在しているので、違いは違いとして認識し、お互い適度な距離を取り、必要以上に係わり合いにならないようにする。消極的ですが、この手の価値観の対立には、現状ではこれが最も効果的です。と、卓話を結んだ。(総務委員会 広報 2019年10月)