烏鷺(うろ)の戦い

随想四季

烏鷺(うろ)の戦い
首都圏真野人会顧問 丸山 昭夫

私が碁を始めるきっかけは昭和20年代に本因坊であった高川さんの「碁を始める人に」と言う本があった。初歩的な碁の基本と囲碁の起源について書いてあった。碁盤は宇宙を表していることが書いてあり、以前、碁好きの父より聞いた話でもあった。

 盤面の目(もく)数は361で、1年の日数をあらわしている。そして盤面に点(星と言う)、が打ってあり、真ん中の点を天元と言い、太陽をあらわし、周りの星の数は惑星のかずと一致している。それは偶然かも知れないが面白い。日本では宮中で、皇太子が何歳かになられた時に正装して、碁盤の上から飛び降りる儀式がある。テレビでも行事を紹介していたと記憶している。これは「宇宙を飛躍する」という意味と想像がつく。

 私の故郷、佐渡は昔から囲碁に因縁の深い土地柄である。日本棋院創設のときの生みの父は大倉喜七郎で、母は喜多文子と言われる程の女流棋士がいた。彼女は政財界に広い人脈を持っていて、当時複雑だった囲碁界を一つにした、立役者であった。

 彼女の父親は司馬遼海である。作家、司馬遼太郎の「胡蝶の舞」に書かれている、主人公の伊之助のモデルである。彼は医者であるが、語学に関して天才的な頭脳をもっていた。特にドイツ語には長け、日本に西洋の医学を取り入れる為に活躍し、医学会を牽引した人物である。かれの生家は、むかし私の実家の隣にあり塀越しに木の角柱があり、「司馬遼海生誕の地」と書かれていた。

 また一方、佐渡の赤泊は碁盤にする良質の榧(かや)材がとれるので有名だった。榧の碁盤は堅い材料ではあるが表面に弾力があり、石を打つと、微妙にひっこみ、湿気を含むとまた元に戻る性質があり、碁を打つに気持ち良い感触を与えてくれるのである。

 犬養木堂(毅)が総理大臣の頃、良い碁盤を手に入れたのが嬉しくて、碁盤を人力車に乗せて、自分は脇をニコニコとして歩いて帰ったと云う逸話が残っている。それ程、碁打ちにとって碁盤は魅力があり、シンボリックなものである。

 私の家にも赤泊産の碁盤がある。赤泊から良い碁盤が出来たという知らせを受け、父は急行した。巨木を伐採する前から話をつけてあったらしく、碁盤師が極上のものが2面あり、5寸盤と7寸盤がある。あなたの好きなものをどうぞと言われて、父は年老いて持ち運びに軽いものを、と薄い盤を選び、持ち帰った。結果的にはその方が上物だったらしく、碁盤師は、うす盤が当然残ると思っていたのに、あとで残念がったと言う話だった。その後、東京より日本刀で碁盤の線を入れることで有名な吉田一如という目たて師が佐渡へ碁盤つくりに来た折に、その碁盤の古くなった面を削りなおして新しく目を盛り直して頂いた。碁盤の裏に「一如」とサインが入っている。その後、何年かたち兄弟で碁を打つのは、私だけなので、私にそれを譲ってもらった。写真はその碁盤と、大正5年入手と箱に書かれている「碁笥(ごけ)」(碁石の入れ物)である。最近は柘植(つげ)の木地仕上げが殆どであるが、これはいつ頃作られたものか漆器で、柳に燕の絵がかかれている。古く塗装もはげかかっていて、価値的にはあまり無いものと思われるが、珍しいものである。また碁笥を入れる桐箱に「烏鷺」と書いてある。烏の黒、鷺の白である。むかし、碁を打つことを烏鷺(うろ)の戦いと言ったらしい。風流だと思う。こんな言葉は忘れられる時代になったようである。

 碁は私にとって、素晴らしい人達との出会いと、人生の支えになっている。棋力は大分落ちているが、これからも続けていきたいと思っている。(会報誌 2018年12月 丸山 昭夫)

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