なぜ、松竹梅はめでたいか


[卓話者]羽賀 正雄 氏( 東京やまと会 顧問)

はじめに

 今回のテーマは「松竹梅はなぜめでたいか」ですが、サブテーマの「松竹梅を植物学的に分析すると、数ある樹木の中から選んだ先人たちの慧眼に感服」を軸にお話しします。

 いわゆる「松竹梅」の源は、中国の「歳寒三友」に由来しています。歳寒三友は、文人画で好まれた画題であり、寒中でも松と竹は青々とし、梅は花を咲かせることからこのように呼ばれたものです。これらは「清廉潔白・節操」という文人の理想を表現したものと認識されていました。したがって元来「めでたい」という意味は含まれておらず、松竹梅を瑞祥植物としたのは我が国の先人たちといえます。

 この三種は中国では全て分布していますが、日本においては、マツは在来種ですが、ウメは唐時代に中国から渡来し広がったものです。またタケで最も知られているモウソウチク(孟宗竹)は、江戸時代に中国から琉球を経由して渡来したものです。よいものは積極的に取り入れ発展してきた和漢折衷の一つといえます。

一、松・竹・梅との心的かかわり

 万葉集は往時の人々と樹木のかかわりを知るのに貴重な資料ですが、梅が一一八首、松が八一首、竹が一七首となっています。現在人気ナンバーワンの桜は四四首ですが、二百年後の古今和歌集では、梅と桜が逆転し、現在にいたっています。 それでは、この三樹種について人々との心(精神)のかかわりを探ってみます。

【松】 一般にアカマツとクロマツを指しています。古来より神霊が宿る木とされ、正月の門松は、歳神を迎える依代(よりしろ)として門に立てられます。社寺に見られる「影向(ようごう)の松」は神仏が来臨するとして崇められています。また、白砂青松と表現される海岸の松原、松島の島嶼景観や街道の松並木にも心を寄せてきました。

【竹】 タケ(ササを含む)の神性について身近なものとして門松、七夕祭、地鎮祭などがあります。地鎮祭ではタケを四方に立て注連縄(しめなわ)を回して、神の存在する聖域、いわゆる結界を示しています。門松は平安時代頃マツから始まり、室町時代にタケが添えられ、江戸時代にウメが加わったといわれています。江戸町民文化の華やかさを反映しているようです。古事記で知られている天の岩屋戸伝説では、天照大神を呼び戻すために天宇受売命(あめのうずめのみこと)は、小竹葉を手にして神懸かりに入ったとあります。現在でも手にタケを持つ巫女の魂振りを神楽・能・歌舞伎において見られます。

【梅】 ウメは万葉時代には貴族たちの花見の主役で「観梅の宴」が開かれました。ウメが広まった要因に菅原道真を祭神とする太宰府天満宮の設立に伴う飛梅(とびうめ)の故事があります。学問の神とされる道真ゆかりの天満宮は、ウメの花が咲く頃、合格祈願の人たちで一杯です。また、各地の梅林・梅園は春を味わう人々で賑わっています。

二、松竹梅との物的かかわり

 次いで物(資源)とのかかわりをみると、それぞれ特徴があり、三樹種合わせるとその多様さに驚かされます。樹木の用途が全て網羅されている感じです。

【松】 松材は、堅く強靭ですので住宅の梁(はり)や桁(けた)などの構造材、耐朽性があるので地盤補強材として利用され、東京駅改修工事現場では、数万本の松丸太が地中から見つかっています。松明(たいまつ)で知られるようにかつて松脂(まつやに)は、照明として重要であり、現在でも精製したロジンは、使用されています。戦時中に松根油生産のため根株堀を体験された方もおられると思います。燃料=薪としても勝れており、陶磁器窯で使用されています。松茸、松の実も見逃せません。

【竹】 竹材は、内部が中空で円筒状をし、一定の間隔で節があるという他の樹木とは全く異なった特性があり割裂性もよいので、それらを生かした利用がなされています。身の回りにあるもので竹冠の文字を拾うと竿、笊(ざる)、筒、筆、管、箕(み)、箒(ほうき)、箱、籠、簾、篩(ふるい)、櫛、箸(はし)と数々あります。笛、尺八、雅楽器などの楽器、皮(稈鞘)をチマキや羊羹の包装材、茶室や庭垣根、弓矢などに用いられています。さらに、筍(竹の子)は、中国二十四孝の「孟宗」伝にもあるように古くから親しまれています。

【梅】 梅材は緻密で堅く、特殊用途に使用されるのみですが、果実や樹皮が食用、薬用や染料として利用されています。中でも梅干し、梅酢は古くから漢方薬として伝わり、現在では健康食・保存食として人気があります。未熟な果実を燻製にしたものを烏梅(うばい)といい、紅花染料の媒染剤や薬用に用いられます。樹皮=梅皮は草木染めに使われます。

三、松竹梅の植物学的位置づけ

 話が固くなりますが、視点を変えて松竹梅を植物学的に考察すると、見事に各分野に分かれています。

 先ず、系統分類的にみると、植物界は種子をつくらない胞子植物と種子をつくる種子植物に大別され、種子植物は、種子が裸出する裸子植物(マツ)と種子が果皮に覆われている被子植物(ウメ、タケ)に分けられ、さらに被子植物は発芽するときの子葉が二個ある双子葉植物(ウメ)と一個の単子葉植物(タケ)に細分されます。現在、私たちが日々接触している種子植物の各区分に松竹梅がピタリと収まることに驚きます。中国で歳寒三友が生まれた頃には、このような分類体系は存在しません。歳寒のなかでインパクトのある樹木を三種選んだら、偶然にも種子植物の分類区分から一種ずつ選んだ結果となったものといえます。

 次いで、樹木は葉の形・寿命によって区分されています。葉の形によって針葉樹(マツ)と広葉樹(ウメ、タケ)、さらにその各々が常緑樹(マツ、タケ)と落葉樹(ウメ)とに分かれます。この二因子を組み合わせると常緑針葉樹(マツ)、常緑広葉樹(タケ)、落葉広葉樹(ウメ)ときれいに区分されます。ちなみに、落葉針葉樹はカラマツのみです。

四、瑞祥・松竹梅の登場

 「心的かかわり」で述べたように、個々には神の依代、神仏来臨、神の領域の印などとして崇拝していたものが、吉祥的なものへと拡大変化したものと考えられています。しかし、その多くは貴族社会に限られたもので、松竹梅三点セットで吉祥の象徴として町民まで広がったのは、江戸時代に入ってからといわれています。経済の発展に伴い人々が物的なかかわりを深め、日常生活に密着したことも大きな要因と考えられます。上下・優劣がなかった松竹梅を、寿司・うなぎ料理の格付け―特上=松、上=竹、並=梅と呼び、優劣を丸く、しかも、めでたく表現するのも生活の知恵といえます。蒲焼について「まつだけうめい」との掛詞(かけことば)もあったそうです。「梅」の客が、蒲焼が焼きあがるまでの時間に掛けて、「梅」でも「うめい/美味い」との気持ちを表したのかも知れません。松竹梅の生活への広がりが感じられます。

おわりに

 中国と気候が類似し、同国文化の影響下にあった我が国において、歳寒三友の思想は容易に受け入れられたものと考えられます。寒中におけるマツの葉の青さ、タケの稈の清廉さ、ウメの花の美しさは私達も共有できます。一方、以上述べましたように、マツ・タケ・ウメ各々の人々との心的・物的つながり及び植物学的にみた位置付けをみると、この三種がそれぞれ全ての事項を満たしていると判断されます。「めでたい」とは、日常において「幸せ・喜び・楽しさ・爽快さ」などを実感できる状態ともいえます。数多くある樹種の中から松竹梅を選びだした先人に大きな拍手を贈ります。同時に身近な樹木を「めでたいもの」に見立てる私達にある共通の感性を大切にしたいと思います。 (会報誌 2019年2月)

歳寒三友の名画切手


歳寒図・楊維禎 (元)


奇石修篁図・明夏昶 (明)


梅花山鳥・明陳洪綬 (明)

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