六道の辻 そのⅢ(京都逍遥)

随想四季

六道の辻 そのⅢ(京都逍遥)
大原 精一(広報委員・越後長岡ふるさと会)

一.六波羅蜜寺

 京都の鴨川に架かる松原橋を東に渡った先に「六道の辻」と呼ばれる西福寺があることを昨年の四月号で紹介した。この寺から南に下がると西国
三十三所の第十七番札所の六波羅蜜寺がある。本尊は国宝の十一面観音であり、辰年だけに開帳される秘仏である。
 

二、空也上人

 六波羅蜜寺は醍醐天皇の第二皇子である空也上人によって天歴五年(九五一年)に開創された。空也上人は当時流行した悪疫退散のため、自ら刻んだ十一面観音像を車に安置して市中を引き廻り、歓喜踊躍しながら念仏を唱えて病魔を鎮めたという。所謂踊り念仏の嚆矢である。
 空也上人は天皇の子として生まれたが、救済の対象としては一般庶民を見据えていたところにその偉大さがある。「市聖(いちのひじり)」と呼ばれた。
 

三、空也上人像

 本堂の裏側に宝物館があり、重要文化財の仏像が十四体並んでいるが、そのことを知る人は少なく、拝観者はあまりいない。
 私は五十年前初めてこの宝物館を訪れ、入口の右側に六体の小さな阿弥陀仏を口から唱え出している空也上人像を見て驚いたのである。
 日本人なら誰でも歴史又は美術の教科書で見たことがあるあの像である。胸に金鼓を捧げ右手に撞木を持ち、左手で鹿の杖をつき、膝を露わに草鞋履きという姿である。骨が浮き上がる程に痩せた体に無常観を漂わせる顔の表情は迫力十分であり、じっと見つめていると、空也上人の生き様はどれ程厳しかったのかと思わされたものである。
 このような像が街中至る所にさりげなく置かれている点に京都の存在の凄みがある。
 

四.平清盛像

 空也上人像の隣には平清盛像がある。これも歴史の教科書でお馴染みの経巻を読む僧形の像である。平家物語の冒頭部分で「間近くは六波羅の入道前太政大臣平朝臣清盛公と申しし人のありさま、伝え承るこそ、心も詞も及ばれね。」と言われた暴虐無尽な清盛像とは異なり、仏者としての気品さえ漂う像だと言われている。ただ、玉眼が入っているためか、厳しい視線が感じられ、私ごときの嘘はすべてお見通しのような恐怖を覚える像である。
 

五.乞食道(こつじきどう)

 空也上人の歓喜踊躍しながらの念仏は今でも蛸薬師通堀川東入ルの空也堂の六斎念仏として残っている。
 踊り念仏というと、時宗の一遍上人が思い出される。北は奥州江刺から、南は大隅国まで遊行して、「南無阿弥陀仏」と書かれた算(ふだ)を配り、踊りながら念仏を唱えることを主唱した。
 一遍上人は必要最低限の物しか持たず、自分の寺も持たず、生涯で著作を全く残さなかったことから、「捨聖(すてひじり)」とも「遊行上人」とも呼ばれる。
 インドの原始仏教では食すために働くことを禁じており、食は布施に頼る「乞食道」であったと言われている。上人は死に臨んで亡骸は「野に捨てて獣に施すべし」と言い残したそうである。空也上人、一遍上人の生き様を見ると、この「乞食道」を全うしたのではないかと思わざるを得ない。仏教者としての一つの生き方で敬意を表せずにいられない。
 

六.源平の栄華の跡

 平安時代末期に平清盛等平家の公達が甍を連ねたのがこの六波羅の地であり、平家滅亡の後鎌倉幕府を創設した源氏が、朝廷の動静を監視するために設置した六波羅探題があったのもこの地である。源平の栄華を偲ぶことができるこの地には、今は平清盛公の像と塚が残るだけであり、その分かえって人の世の栄枯盛衰を感じることができるのである。
 鳥辺山の焼き場に続く「六道の辻」を含む六波羅地区に邸宅や探題を建てた源平の人々は、人の世の無常を感ずべくして感じながら滅びて行ったのであろう。(2020年5月 大原 精一)
 
関連リンク
六道の辻(京都逍遥)
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