私の「信濃川」物語

随想四季

私の「信濃川」物語
樋口 高士

Ⅰ、「信濃川」を、私の心に深く刻んだ二つの「校歌」
 八千八川 集め来て
 日本海に 注ぐなる
 流れも清き 信濃川
 果てしも見えず 末長し

 これは、昭和19年4月、私が入学した十日町小学校校歌(作詞作曲・小林八郎、明治43年)の出だしの一節。父祖の代から歌い継がれており、幼少の頃から馴染のあった「八千八川」を、学校で初めて声をはりあげて歌ったときは、うれしくてたまらなかった。

 もう一つの校歌――
 信濃川静かに流れよ
  我が歌のつくるまで
 つきせぬ思い若き日の
  銀河にうつる高楼は……

 これは、私の郷里の隣町の小千谷高校校歌(昭和27年)の出だし。作詞は、小千谷出身で、日本の現代詩の最高峰を極めた西脇順三郎氏(1824~1978)。かつて『旅人かえらず』(S22)、『近代の寓話』(S28)などに親しみ、敬愛してやまなかった西脇さん。偶々、小千谷在住の叔母の縁で「西脇順三郎を偲ぶ会」に入会。会報『幻影』で小千谷高校校歌を西脇さんが作詞していることを初めて知る。一読(未だにメロディーは知らない)、さすがは西脇さん、と深く感動したのだった。
 もとより、小千谷高校は私の母校ではない。ただ小学生時代の多くの友が、「信電(信濃川発電所)」の関係で、小千谷に移住し、そのほとんどが”谷高”に進学。”谷高”は”十高”(十日町高校)”六高”(六日町高校)と共に「魚沼三高」として馴染の学校であった。

Ⅱ、新潟県の”母なる川” 信濃川
 信濃川は日本一長い川――。
小学生の頃からそう教えられてきた。新潟県の南西端の十日町盆地の真ん中を流れ、見事な河岸段丘を形成し、小千谷、長岡をへて、新潟で日本海に注ぐ。文字通り、越後新潟の”母なる川”である。
 ここで、信濃川「地理学」の整理・おさらいを――。
 信濃川は長野県、新潟県をひと続きで流れる一級河川。このうち「信濃川」と呼ばれているのは新潟県域のみ。長野県域では「千曲川」。源流は、埼玉、山梨、長野の三県の県境・甲武信ヶ岳の長野県側。佐久盆地、上田盆地を経て、川中島北端で飛騨山脈を源流とし松本平を流れる「犀川」と合流。
 川は、北東に進み、新潟県に入って信濃川と名前を変える。全長367㎞(新潟県域のみでは153㎞)。越後新潟で、なぜ「信濃川」と呼称するようになったのかの定説はないのだが、諸史料によれば、越後では500年程前から使われていたようだ。
 数年前、火焔型土器のことを調べていた折のこと。遺跡分布マップにより、150カ所程の遺跡が、全て信濃川流域に集中していることを知る。信濃川の果たしてきた「ヒト・モノ・情報」の流通という大きな役割の原点は縄文期にまで遡るかと感無量であった。

Ⅲ、私・「信濃川」の思い出──フラッシュ・バック
・小学校3、4年時。秋も深まってきた頃。近所のガキ大将から「今度の日曜に、信濃川へえぐぞ―」と号令がかかる。6~7人の仲間が、一直線の高田町通りを下り、十日町橋を渡り、浅川原から下の中之島に降りる。そこに群生している「グミ」の小さな赤い実を摘んで食べるのである。あの甘酸っぱい味覚の「記憶」は、いまも私の舌先に残っている。
・5年前、喜寿を迎えた折──。
中学の同級生有志18人が参加した月岡・弥彦喜寿旅行の折。十日町の総鎮守・諏訪神社でお祓いを済ませ、貸切バスで一路北へ。行程は、ほぼ信濃川と並行して、小千谷、長岡を経て分水へ。ここからはフェリーに乗り換え、新潟・万代橋へ。十日町辺と比べると、川幅ははるかに広く、水量も豊富なのが印象的。風をきって疾走する船上で古い友と語り合う船旅はまことに爽快であった。(2019年9月 樋口 高士)

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